今さら聞けない人事DX!初めてでも分かる基礎知識と企業事例を紹介

今さら聞けない人事DX!初めてでも分かる基礎知識と企業事例を紹介

 近年、企業の持続的な成長のためにDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の必要性が叫ばれています。人事部門においては、とりわけ戦略人事を実践するうえでDXが欠かせないものとなっており、人事業務にテクノロジーを取り入れて限りある人材を有効活用する「人事DX」が注目を集めています。

この記事では、DXに関する基礎知識とあわせて、人事DXの注意点や日本企業の先行事例をご紹介します。

DXとIT化

 DXとは、デジタル技術を用いて既存の製品やビジネスモデル、業務プロセス、組織文化を変革させることをいいます。DX推進の目的は、ビジネス環境が激しく変化するなか、モノやサービス、仕組みなどにデジタル技術を取り入れてイノベーションを起こし、市場における企業の競争優位性を維持することです。

DXと混合しやすいのが「IT化」というワードです。IT化とは、これまでアナログで行っていた業務を、
IT技術を活用してデジタルに置き換えて、業務効率化・最適化を図ることです。DXとIT化では対象範囲が
それぞれ異なります。DXはデジタル技術の活用によってビジネス全体の変革を目指しますが、一方でIT化は
業務プロセスの改善を対象としています。ビジネスを変革するには業務効率化は不可欠であるため、DXにおいてIT化は重要なプロセスといえます。

近年、人事部門においても「戦略人事」の注目とともに、DXが重要視されています。戦略人事とは、企業の経営戦略に沿った人材マネジメントをおこなうことです。経営戦略・ビジョンの実現を達成できる人材育成や組織づくりを実践するため、また高い専門スキルを発揮し経営者や現場を人事面からサポートするHRビジネスパートナーの重要性が高まっているために、人事部門におけるDX推進が不可欠となっています。

人事DXとは

 人事部門におけるDXとしては、オペレーション的な人事業務を効率化させること、戦略的な人材配置や育成をおこなうこと、人事のミスマッチを防ぎ自社に最適な人材を確保することなどが挙げられます。人事DXをおこなうことで、担当者のバイアスに影響されない客観的な人事判断が可能となり、生産性が向上するとともに空いた時間を付加価値の高いコア業務にあてられるようになります。

また、人事業務を効率化するためのデジタル化も欠かせません。RPAやOCRによる業務の自動化や、労務や勤怠、給与などの従業員情報を管理する人事管理システムの導入によって人事担当者の業務負担が軽減すれば、人事が本来おこなうべきである、より戦略的な業務に多くのリソースをあてられるようになります。また、これまでは別々に管理されていた人材データを一元管理・見える化することで、データを根拠とした議論や分析が容易になるというメリットもあります。

さらに人材データの一元管理によって、ピープルアナリティクスをおこなえるようになります。ピープルアナリティクスとは「人材データの分析と活用」を意味する言葉で、具体的には従業員に関するデータを収集・分析し、人材の配置や評価、組織改善に幅広く活かす取り組みをいいます。年齢や保有スキルなどの人材データだけでなく、社用端末の使用状況やオフィス設備の利用状況などの行動データまで収集・分析することが特徴です。担当者の主観や経験に頼る従来の意思決定による人事のミスマッチをなくし、人材の採用や配置、育成、評価、組織改善、ウェルビーイングなどに広く活用できるメリットがあります。

人事DXの注意点

 人事部門におけるDX推進にデジタル技術の活用は欠かせないものの、デジタルツールを導入すること自体が目的になってしまうと、業務そのものの「変革」が要である本来のDXを実現できなくなります。人事DXで目指すべきゴールは、デジタルツールの活用で必要なデータを収集・分析し、これまで担当者の主観に頼りがちだった人事業務を変えていくことです。人事DXでどのような課題や戦略、組織の姿を実現したいのか、まずはDXを導入する目的を明確にすることが大切です。

人事DXの企業事例

 人事DXに各企業はどのように取り組んでいるのか、DX推進の参考になる企業の先行事例をご紹介します。

  • 本田技研工業

本田技研工業では、2018年に人事専用のデータ・ウエアハウスを構築するプロジェクトを開始しました。デジタルの情報だけでなくOCRによる紙の情報も集約、膨大な情報をデータ・ウエアハウスに蓄積し、デジタル化を図っています。

同社ではデータ活用のために、データ・ウエアハウスに蓄積した情報を簡単に出力する機能や、煩雑な手作業を自動化する機能を備えたシステムを社内で開発しました。その結果、各事業所でのデータ集計・分析が容易になり、人事担当者が積極的に仮説検証をおこなえるようになりました。

また、データ・ウエアハウスに蓄積された従業員の行動データから、現場のマネジメントに必要な情報を表示する仕組みを構築し、従業員が安心して働ける環境をサポートしています。ほかにも、データ・ウエアハウスを軸に様々なピープルアナリティクスに関する取り組みを開始しています。

参考:Human Capital Online『新しいアプローチの基盤として人事専用データ・ウエアハウス構築―本田技研工業

  • シスメックス

臨床検査機器の開発・製造をおこなうシスメックスは、売上高の約85%と従業員の約60%を国外が占めるグローバル企業で、日本型人材マネジメントの見直しと従業員エンゲージメントの向上が課題となっていました。

同社ではGoogleにならって「人材配置にマッチング理論を応用する」ことを考え、東京大学マーケットデザインセンターとともに自社に最適なマッチングアルゴリズムの共同研究をおこないました。その後、既存のアルゴリズムをもとに従業員の意向をより反映させる改修を加え、2021年の新入社員の配属にて実用化しています。

アルゴリズム導入後は新入社員と配属先双方の希望が反映されるようになり、新入社員のエンゲージメント向上に成功しました。現在は一般従業員への活用もスタートさせています。

参考:Human Capital Online『マッチングアルゴリズムで自律的なキャリア開発を実現―シスメックス

変化の激しいビジネス環境において自社の優位性を確保するためには、既存の意見や古い慣習にとらわれず、課題を発見し分析・解決を推進する能力が必要です。HRBPには、経営者目線でありながら視野を広く持ち、これまでにない自由な意見や具体的なアイデア、課題解決策を創出することが求められます。

  • ソフトバンク

ソフトバンクでは2017年から採用プロセスにAIを活用しています。まずは大量のエントリーシート(以下ES)を読む担当者の負担を減らし評価の精度と公平さを高めるため、自然言語認識によって応募者のESを評価する一次選考を実施しました。これにより担当者のES確認時間を従来の4分の1に短縮し、空いたリソースをより戦略的な採用活動にあてられるようになりました。

2020年からは新卒採用選考の動画面接にAI動画解析システムを導入し、動画データをもとに応募者の評価を自動算出しています。不合格判定が出た動画は人事担当者が確認し、合否を最終判断することで選考の正確性を担保しています。システム導入により、採用側の時間と面接場所確保の負担、学生側の時間と交通費の負担をそれぞれ軽減することに成功しました。

参考:

SoftBank『「AI採用」は就活戦線をどう変える ソフトバンクの新たな挑戦

SoftBank News『「あなたの面接官はAIです」 ベテラン人事の評価ノウハウをAI化した、AI動画面接の仕組みをギリギリまで聞いてみた

まとめ

 人事DXとは、デジタル技術を活用して人事業務を効率化し、戦略的な人材配置や採用活動をおこなうことを指します。デジタルツールの導入自体が目的化するとDXにおいて重要な「変革」を実現できなくなるため、人事DXによってどのような戦略や組織の姿を目指すか明確にしたうえで進めることが大切です。

自社の経営戦略に沿った人材マネジメントを行い競合優位性を確保するためにも、人事DXを成功させている企業の事例を参考に、人事業務のデジタル化やピープルアナリティクスに取り組んでみてはいかがでしょうか。