人事が知っておきたい心理学 - 面接官向け編

人事が知っておきたい心理学 - 面接官向け編

 入社前の面接で、不正確な人物評価を行ってしまうと、本人のみならず配属先の組織全体に悪影響を及ぼしてしまうリスクがあります。また、面接には候補者を「見極める」だけでなく、候補者を「惹きつける」目的もあり、面接官の振る舞い一つが、候補者の辞退を発生させるか否かにも関わってきます。

 本コラムでは、偏りのない公正な人物評価や、候補者側から好意を持たれるために知っておきたい、心理学の法則について、いくつか紹介してまいります。

ネームコーリング効果

【概要】

「会話の中に“相手の名前”を意識して入れることで、相手からの好感度を上げることができる」という心理効果のこと。

【どのような場面で役に立つ?】

 面接前には必ず、初対面となる候補者のレジュメに目を通しておき、入室時の第一声で「○○さん、本日は面接にお越しいただきありがとうございます」と話しかけ、面接官および会社としての第一印象を良い方向へ持っていきましょう。また、面接中も意識して候補者の名前を呼ぶ(できればレジュメを見ずに)ことで、さらなる印象のアップが期待できます。

 これは、面接の場に限らず、日常のあらゆる対人コミュニケーションの場面でも役立ちます。
例えば、あなたも上司から「キミ」や「あなた」呼ばわりされるよりも「○○さん」と呼ばれたほうが、間違いなく気分は良いはずです。普段から他人を代名詞で呼ぶようなクセがある方は、きちんと名前で呼ぶことを心がけましょう。

返報性の心理(自己開示の返報性)

【概要】

相手から受けた行為に対して「お返し」をしたいと感じる心理のこと。

【どのような場面で役に立つ?】

 面接で、自社の業務内容について話すとき、
「実情を話してしまうと、候補者が逃げてしまわないか?」
「まだ赤の他人だし、あまり会社の内情については伝えたくないなぁ…」
と、会社としての自己開示を行わずに面接を進めてしまうと、候補者側もその態度を感じて胸襟を開かず、結果として「候補者を見極めるために必要な情報が手に入らなかった」という終わり方になってしまいます。また、候補者側からの印象も悪くなり、辞退発生の原因にもなってしまいます。

 採用活動(特に中途採用)とは「会社にとって何らかの課題があり、それを解決するための人を探す行為」であるはずです。ぜひ勇気をもって、会社の課題や悩みをなるべく包み隠さず伝えながら、候補者がその解決に向けて活躍してくれそうかどうか?を互いに判断できる場にしていきましょう。

両面提示(Realistic Job Preview理論)

【概要】
相手を説得する際に、良い面(メリット)と悪い面(デメリット)の両方を伝えることで、信頼を上げるテクニックのこと。

【どのような場面で役に立つ?】
 仕事は楽しいことばかりではなく、辛いこともたくさんあるでしょう。候補者からの辞退を恐れるばかり、仕事や会社の良い部分のみを面接の場で話していませんか?
入社後の定着率のことまで考慮した採用活動を行うのであれば、その仕事の良い部分・悪い部分は、面接の段階できちんと伝えるようにしましょう。

Realistic Job Preview理論には、以下4つの効果があるといわれています。
①セルフスクリーニング効果:
 候補者がより正確で完全な情報を得ることで、自ら企業との適合性を判断できるようになります。
②ワクチン効果:
 それまで持っていた過剰な期待やイメージを覚まし、入社後に起きる失望を軽減させることで、離職率を低下させます。
③コミットメント効果:
 会社の誠実さをアピールし、エンゲージメントを高めます。
④役割の明確化効果:
 候補者の役割やミッションが明確化され、入社時のモチベーションを高めます。

ハロー効果

【概要】
ある人物を評価する際に、顕著に優れた点がみられると、その人の他の要素も優れていると思い込んでしまう心理効果のこと。

【どのような場面で役に立つ?】
例えば、あなたが面接官を務める際、候補者の履歴書に事前に目を通したとしましょう。
そこに華やかな履歴が記載してあると「その人は優秀だ」と思い込んでしまい、無意識に評価を高くしてしまう危険性が生まれます。
「学歴や職歴が華やか」だからといっても、必ずしもあなたの会社で活躍できる人間であるとは限りません。
面接を実施する際には、特定のキラキラした実績に惑わされず、さまざまな項目や視点で冷静かつ中立に評価を行わないと、その人物の評価を見誤ってしまう可能性がありますので注意しましょう。

ピークエンドの法則

【概要】
ある出来事に対して、記憶や印象に強く残るのは「感情が最も高ぶった部分」と「その出来事の終わりの部分」であり、これらが出来事の全体的な印象を決めてしまう心理効果のこと。

【どのような場面で役に立つ?】
面接や面談を行った際に「なんとなく」の印象で評価を下していませんか?
前述のように、人間は「インパクトのある特定の事実や出来事」または「終わりの雰囲気」に印象が引きずられてしまう傾向があります。
評価を行う際には、議事録データなどを活用し、内容を冒頭から俯瞰的に振り返ったうえで判断することで、評価バイアスを避けることができます。


「人事が知っておきたい心理学 - 面接官向け編」いかがでしたか?
次回は「人事が知っておきたい心理学 - マネージャ向け編」と題して評価・育成に役立つ心理学について解説したいと思います。

次回もお楽しみに!