リモートハラスメントの実態と防止・対処策

リモートハラスメントの実態と防止・対処策

2022-03-24

 コロナ禍のもとで導入されたリモートワークは働き方改革として社会的に広がり、感染収束後もある程度の規模で定着する様相を呈しています。しかし、この新しい働き方にも暗い影を落とす出来事が頻発し、心身ともに傷つく被害者を生み出しています。そう、リモートハラスメント(以下、リモハラ)です。
その深刻さは、2020年6月から施行されている『改正労働施策総合推進法』(通称パワハラ防止法)の対象にも指定されるほどです。

リモートハラスメントとは? その原因は?

  「リモハラ」は、リモートワーク中の「パワハラ」や「セクハラ」といった嫌がらせ行為を意味する言葉。
文字どおりリモート環境で行われるため「他人の目が届きにくく、エスカレートしやすい」という特徴があります。
 では、なぜこんな品性に欠ける行為が起こってしまうのでしょうか?

パワハラ型」の原因

 「慣れない在宅勤務で、部下をどのように管理すればよいか要領をつかめない」といった管理職が多くなっているようです。部下の行動や仕事の進捗状況が把握しづらく「仕事をサボって遊んでいないか?気になって仕方がない」という思いが、ハラスメントへとつながっていくわけです。

セクハラ型」の原因

 リモート環境では、仕事とプライベートの境界線が曖昧になることから、相手との距離が近くなったような錯覚に陥りやすくなります。また、職場とは違って周囲に目撃されることがないため、つい気が緩み、大胆な発言をしてしまう人もいます。

「モラハラ型」の原因

 セクハラ型と同様に、画面越しに相手のプライベートが見えるというリモート環境特有の問題が主な原因といえます。また、新型コロナウイルス感染の不安や外出自粛などの行動制限によるストレスで、職場の仲間に対してつい暴言を吐いてしまった、というケースもあるでしょう。

従来のハラスメントとの違い

周囲に認知されにくい

 リモハラは発覚しづらい嫌がらせです。社内で起きるパワハラやセクハラは周囲からも「ハラスメント」として認識されますが、リモート環境では実際に起こったことが周囲に理解されにくくなります。
 たとえば、リモート会議。上司から「わざと会議に呼ばなかったのか?それとも呼びそこねたのか?」といった質問があった際、部下が上司を意図的にミーティングメンバーから外したのか?、何かしらのアクシデントで外してしまったのか?が周りの者には分かりづらく、ハラスメントとは気づかないこともあります 。

優遇か差別か?が分かりにくい

 コロナ禍の「在宅勤務令」は一見、感染リスクを下げる優遇措置とも映りますが、明確な理由もなくその人だけに在宅を命じているかもしれません。「自分だけ出社を命じられ、他の社員は在宅勤務」という事例もあります。これも、上司がお気に入りの社員を呼び出しているのか?、嫌がらせなのか?が、判然としません。

リモート環境だから、多彩なハラスメントが起きる

パワハラ的」な行為

実現不可能な業務や、ムダな業務を強要

  • 業務時間内にできない過大なタスクを命令
  • 仕事の進捗確認などを過度に要求
  • 行動や時間の使い方について、必要以上の説明を要求

仕事以外の事柄

  • 背景に映る、部屋の状況を愚弄
  • オンライン飲み会への勧誘
  • オンライン飲み会の場で、私生活について指導
  • 業務以外のことに関する説教

セクハラ的」な行為

室内の映像に対しての指摘

  • 室内の様子が分かるように映すことを要求
  • プライベートな空間を見せるよう要求
  • 部屋の様子から個人情報を収集

服装・体型などの指摘

  • 服装について「今日はこんな服をきているんだね」などと発言
  • 化粧の有無について指摘
  • 「最近スタイルが良くなったね!」「体重が増えてきたんじゃない?」など、体型について指摘

服装などの指示

  • 顔だけでなく、全身が映るよう要求
  • 服装の変更(部屋着などのプライベートなファッション)を要求
  • パジャマなどになることを要求

個人的な接触要求

  • SNSでの個別のつながりを要求
  • 不要な2人きりでのオンライン会議を要求
  • 恋人について執拗に質問
  • プライベートとしか思えない、大量のメールを送信

モラハラ的」な行為

  • 離席を「サボりだ」と叱責
  • 残業申請を拒否
  • 休み時間までモニター接続を強要
  • 時間に関係なく仕事を指示
  • オンライン会議中に後ろから聞こえる「子どもの声」に対して憤怒
  • 説明なしで新規の仕事を任命・チャットなどを無視

意外なリモハラ

 ハラスメントは「上司から部下に」「年長者から年少者に」という図式だけでもありません。
 リモートワークによって対面で説明する機会が失われた結果、ITが苦手な年長社員が新しいツールやシステムについて若手に助けを求めました。しかし、そこで「なんでこんなことも分からないんですか?」「何度同じことを言わせるんですか?」と叱責されたとか。これも「立場が下の者から上の者へ」というパターンではありますが、明確なリモハラに該当します。

リモートハラスメントを放置するリスク

 在宅勤務中のハラスメント被害を放置したままだと、被害者はもちろん会社が大きな打撃を受けることにもなります。

被害者側のダメージ

 加害者から深刻な精神的ダメージを受けると、睡眠の質が悪化して集中力が低下します。そうすると、仕事のケアレスミスや遅延を引き起こすなど業務に支障をきたしたり「うつ病」を発症して、結果的には長期的な治療を要することにもなります。

加害者側のダメージ

 嫌がらせ目的による強い叱責や卑劣な要求が起因となって精神障害を発症した場合、民法上の不法行為が成立します。しかも、何度か注意を受けたうえでハラスメントを繰り返した場合は、解雇も含む厳しい処分もあるでしょう。

職場側のダメージ

 「ハラスメントが多いのは、コミュニケーションが不足している職場とか、失敗が許されない雰囲気が強い職場など」といわれています。特に、上司の影響力が大きい職場では被害者が声をあげにくく、同僚もサポートしにくいという場合があります。リモートの環境下では、このような傾向はさらに強くなります。

企業側のダメージ

 企業としてハラスメント行為を放置した場合、責任が問われる場合もあります。被害者からの申し立てにより、労働局長の助言・指導や紛争調整委員会の斡旋などを経ても解決しない場合は、訴訟に発展することも。さらに、新しい働き方を否定する企業として社会的に「負のレッテル」が貼られ、大きなイメージダウン、ブランド崩壊につながる可能性も低くありません。

企業に求められる取り組み

リモートハラスメントを起こさせない防止策

【リモハラへの共通理解】
 まずは、リモートハラスメントとは何か?を理解し、社員全員に周知させることが不可欠。パワハラやセクハラなどと同様に、加害者が被害者に不利益を与えたことを理解できないケースも少なくありません。「そんなつもりはなかった」「考えすぎだ」といった発言が、その状況を雄弁に物語っています。

【防止研修の実施】
 どのような行為がリモートハラスメントに該当するのか?、なぜ問題なのか?、どうすべきなのか?を研修で徹底します。ケーススタディを用いて、参加者に「リモートハラスメント行為に該当するかしないか?」を判断させる方法が効果的。できれば参加者がお互いの意見を出し合って、認識を共有し、その会社その職場にふさわしいルールやマナーを自分たちで考えていくことが望まれます。

【社内ルールやマナーの明文化】
 リモートハラスメントは、就業環境を阻害します。その結果、生産性の低下はもちろん、最悪の場合は従業員の精神疾患、離職などの重大な問題を引き起こしかねません。ですから「リモートハラスメントは許さない」ということを経営者が明確に宣言するとともに、進捗報告の頻度・方法、緊急時の連絡方法、私用で離席する際の申請方法、といった具体的なルールやマナーを明示することが重要です。

【リモートワークの技術的な改善】
 リモートハラスメントを事前に回避させるために、Webカメラでプライベートな空間が映らないように「バーチャル背景などの使用を許可する」といった対応を検討すると効果的です。また、希望者にはプライベートな声が入りにくいように、指向性の強いマイクやヘッドセットを用意するなどの対策もあります。

【リモートワークに適したマネジメント方法の習得】
 管理職がリモハラを起こす原因のひとつとして「リモートワークマネジメントへの不安」が考えられます。そこで、その効果的なマネジメント方法を習得する機会を設けることも有効でしょう。管理職が部下の業務進捗状況やフォローすべき点を的確に把握できれば、監視は不要になるはずです。

リモートハラスメントの早期発見に向けた対処法

【相談窓口の設置】
 リモートワーク中は身近に相談できる人がいないため、一人で悩みを抱えて孤立しがちです。そこで、気軽に相談できる窓口を設置・周知することが大切。社員が安心して相談できるよう以下の内容を伝えるのも効果的です。
・リモハラに該当するか分からない場合でも、相談が可能であること
・相談したことで不利益な扱いを受けることは一切ないこと
・相談者のプライバシーは確実に保護されること

【積極的な実態把握】
 全社員を対象とした定期的なアンケート調査が効果的です。調査を行う際は、実態をより正確に把握するために匿名で実施するとよいでしょう。また、実際にリモハラ被害を受けている社員が、一人で問題を抱えこまないよう、調査実施時に相談窓口を案内することも大切です。

【被害者にあたる社員の気持ちを受け止める】
 社員からリモハラの報告をうけた際、まずは当事者の気持ちに寄り添いましょう。話を聞くなかで「あなたが悪い」と一方的に責めることは「セカンドハラスメント」にも相当します。相談した社員に非があると感じても、まずは話を受け止めることに徹することが第一歩です。

【リモハラかどうか?を早急に判定しない】
 相談された内容が「リモハラかどうか?」をその場で判定しないことも大切。また、相手に寄り添うあまり「それはおかしいですね」と主観の入った同調をしてしまうと「人事のお墨付きをもらった」と相談者が吹聴してしまうケースもあります。相手の気持ちを受け止めながらも「良い or 悪い」のジャッジをしないようにしましょう。


 相手が不快に感じる限りは、ハラスメントに該当します。ですから、企業はリモハラの防止策を早急に講じ、社員が安心してリモートワークに取り組める環境を整えることが肝要だといえます。